国民のための管楽器図鑑

 このコーナーでは、いわゆるオーケストラ楽器と呼ばれるもののうち、主に管楽器についての解説をしています。毎回一つの楽器に絞って、その特徴や演奏に関するエピソードなどを紹介したいと思っています。音楽に詳しくない方にもなるべく分りやすいように、専門用語には用語解説のリンクを設けましたので、そちらを参考になさってください (別ウインドウまたは別タブで開きます)。今月は「サクソフォン」です。なお、今回は頻繁に使用されているソプラノ、アルト、テナー、バリトンを中心に取り上げています。それ以外の楽器はリンク (同ウインドウ) で説明していますので、併せてご覧ください。
 音名表記はすべてドイツ音名です。


サクソフォン
英仏 saxophone / Saxophon / saxofono / 萨克斯

Soprano Saxophone Alto Saxophone
B の楽器
ト音記号
実音の長 2 度上に記譜
・Es の楽器
・ト音記号
・実音の長 6 度上に記譜
Tenor Saxophone Baritone Saxohone
・B の楽器
・ト音記号
・実音の長 9 度上に記譜
・Es の楽器
・ト音記号
・実音の長 13 度上に記譜

その他の同属楽器はこちらです
[Sopranino Saxophone] [Bass Saxophone] [Contrabass Saxophone]

材質 真鍮製で、表面にラッカーを塗布したり、金や銀、ニッケルなどのメッキを施したものがある。銀製のものもある。
お値段 6 ~ 150 万円くらい。
専門的呼び名 サックス (バリトンサクソフォンはバリサク)。

サクソフォン サクソフォンはクラリネットと同じシングルリードの楽器で、ソロはもちろん、クラシック、ジャズ、ロック、ポピュラー、またはサクソフォンアンサンブルや木管アンサンブル、果ては演歌の伴奏など、あらゆるジャンルで活躍する非常にポピュラーな楽器である。クラリネットと同様にマウスピースにリードを装着し、リガチャー (締め具) で固定して演奏する。マウスピースはエボナイト製や金属製があるが、金属製のものはもっぱら軽音楽で使用されている。リードには葦 (reed) を使うが、プラスチック製のものもある (写真右下)。
 他の多くの木管楽器とは異なり、サクソフォンは金属製で、管の内径が著しく太くなっている。管体はマウスピース、ベック、本体の三つの部分で構成されていて、部分的な取り外しが可能である。ソプラノ、アルトには管体下部のベルの部分が屈曲しているものと、直管のものとがあるが、ソプラノの屈曲管と、アルトの直管はあまり使用されていない。特にアルト以下の楽器は管が長くなり、重量も増すので、首から紐 (ストラップ) でつるして演奏する。バリトンは支柱を床に立てて演奏する。
リード サクソフォンは放物形の円錐管を持ち、また内径が著しく太いため、音程の調節はあらゆる木管楽器の中でも最も自由で柔軟性に富んでいる。ただし、このことは逆にピッチの調整がシビアということでもあって、特に高音域においては、音程が著しく不安定になる。低音域の楽器では、楽器自体が巨大になるため、演奏には大量の息が必要で、長いフレーズを演奏するのが困難になる。ソプラニーノやバスサクソフォンが普及しないのは、こういったことが原因である。
 音色は他のどの木管楽器にも属さない独特なもので、輝かしく明るい音色が特徴である。また、低音から高音に渡って均一な音色を持っているが、前述のように高音に行くにしたがって音程が不安定になる。また、多くのリード楽器のように、多少タンギングに制約を受ける場合があるので、スラーのつかない速いパッセージなどは苦手である。
 下記はサクソフォンの記譜上の音域である。メーカーによって多少の差異はあるかも知れないが、基本的にはどのサクソフォンも記譜上の音と指使いは同一で、持ち替えがスムーズにできるようになっている。

記譜上の音域


 サクソフォンは管楽器の中では歴史が浅く、ベルギーのアドルフ・サックスによって発明され、1846 年にフランスで特許を得た楽器である。
 当時、フランスの吹奏楽団 (軍楽隊) は世界でも最高水準の演奏技術を誇っており、有名な管弦楽曲を優れた技法で効果的に編曲して演奏していた。そして、主要な管弦楽団が演奏旅行に行かないような、地方都市や小さな町に赴いて紹介していたのである。
 管弦楽曲を吹奏楽の編成に書き直す場合に、最も問題になるのは、弦楽合奏をどのようにして管楽器で表現するかということである。当時は低音から高音までの広い音域を、均一な音色で演奏できる管楽器が存在しなかった。また、金管楽器と木管楽器の音色が溶け合うような楽器を求められたことが、サクソフォンを誕生させたとも言える。
 サックスが発明したのは、コントラバスからソプラニーノまでの 7 種のサクソフォンだが、こんにちでは主にソプラノ、アルト、テナー、バリトンの 4 種が使用されている。歴史の浅い楽器なので、管弦楽の主要木管楽器には含まれないが、近代・現代の作品には頻繁に登場する。ただしソプラノやテナー、バリトンはほとんど登場せず、多くはアルトかテナーが 1 本入る程度である。なお、管弦楽団ではサクソフォンは定員外なので、こういう場合はトラを呼んだり、クラリネット奏者が持ち替えて吹く。
 吹奏楽の場合はおおむねアルトが 2 ~ 3 人、テナーが 1 ~ 2 人、バリトンが 1 ~ 2 人といったところである。ソプラノは譜面に指定があればアルトから 1 人持ち替える。稀にバスが加わることもある。また、オーボエを所有しない吹奏楽団では、オーボエのパートをソプラノで代用することがある。


有名サクソフォンメーカー 3 社へのリンク (英語または日本語)
<リンク先で各ブランドに分かれている場合があります>

Selmer
Yanagisawa
Keilwerth


サクソフォン雑記帳

 サクソフォンを知らないという人はいないだろう。管楽器に疎くても、サクソフォンやトランペットだけは知っていたり、実際に楽器に触れたことのある人も多いと思う。楽器屋に行けばショーケースに必ず置いてあるし、雑誌をめくれば「あなたも一週間でサックスが吹ける」などという広告が載っている。歴史は浅いのに、これだけ認知される管楽器というのも珍しい。ところが私は 20 年近くも吹奏楽を続けていながら、どういうわけかサクソフォンだけは吹いたことがない。そういうわけで、今回私が書いた「サクソフォン編」も、ネットで調べたり、友人のサクソフォン奏者に聞いたりしてまとめたものである。なにしろ私は知りもしないことを、さも知っているかのように書くのが大得意なのだ。
 さて、ここで、雑誌広告の「あなたも一週間でサックスが~」という謳い文句が果たして本当なのか、興味のある人も多いだろうから、少し触れておきたい。
カーブドソプラノ この答えは、あなたがどんな場面でサクソフォンを演奏したいのかによって変わる。個人的にサクソフォンが好きで、音を出してみたいというだけなら、試してみるのもいいかも知れない。サクソフォンは音が出しやすいし、運指も割と簡単なので、1 週間でも一生懸命練習すれば、プロ野球の試合中に鳴っているトランペット程度には吹けるようになると思う。嫌になったらやめれば良いのだし、誰にも迷惑がかかるわけではない。さらに興味が続けば、サクソフォン教室に通ってみるのもいいだろう。適切な指導が得られるし、仲間も増えて楽しく練習できるからだ。ただ、こういった音楽教室というのは、いわば生徒はお客なので、ヘタクソでも怒られるわけではないから、どちらかというとのんびり練習したい人にオススメである。もっと自分に厳しい人は、アマチュアで活動している吹奏楽団やサクソフォン・アンサンブルのオーディションを受けてみよう。1 週間練習して音階が吹けるようになった程度でこういう行動に出ることを一般に「暴挙」と呼ぶが、受けるだけならタダだから良いのである。ただし恐らく丁重に断られるのがオチだと思う。合奏というのは大変高度な作業で、多くのアマチュア楽団は週に 1、2 度の練習だけでカバーしているから、初心者の面倒を見る余裕などないからだ。しかし、もし万一入れてくれるところがあったら、しがみついてでも離してはならない。合奏に加わるようになると、周囲に刺激されたり、アドバイスがあったりして、演奏技術が著しく上達するからである (やる気と練習時間があれば)。コンクールや演奏会にもなれば、それなりに難しい譜面を渡される。吹けなければ出場できなかったり、周囲から顰蹙を買ったり、指揮者に罵倒されたりするから、自分を鍛えるにはもってこいである。もしこういうチャンスがあったら、ぜひ頑張って練習して欲しい。
 楽器というものは、それを好きになって、正しい方法で練習を継続しさえすれば、誰でも上手になれる。1 週間で吹けるかどうかの結論は、詰まるところ「吹ける」というのがどの程度を指すかで変わる。私は 12 才の春にトロンボーンを渡されて、1 週間後には 1 オクターブ程度の音階を吹けるようになって天狗になっていたが、他校の上級生の演奏を聴いて、思い切り鼻っ柱を折られた。簡単そうに見えて、表現したいことがが全然できないもどかしさに、一時は楽器を見るのもイヤになった (今でも少しイヤ)。しかし、それでも友達と一緒にいることが楽しかったし、思春期の私には女子の多い吹奏楽部をやめることは忍びなかった。そして、それらの仲間と合奏する喜びは、私にとって何物にも代え難い充実した青春のひとときだった。それから 19 年経つが、続ける動機に今もそれほど変化はない。
 好きになってしまえば、1 週間どころか 1 年や 2 年などあっという間に経ってしまう。そのころあなたも本当の「吹ける」仲間として、どこかの楽団やアンサンブルで活躍しているに違いない。

参考文献:新音楽辞典 (音楽之友社) / 新版吹奏楽講座 (同) ほか
記述:1998 年 6 月



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