国民のための管楽器図鑑

 このコーナーでは、いわゆるオーケストラ楽器と呼ばれるもののうち、主に管楽器についての解説をしています。毎回一つの楽器に絞って、その特徴や演奏に関するエピソードなどを紹介したいと思っています。音楽に詳しくない方にもなるべく分りやすいように、専門用語には用語解説のリンクを設けましたので、そちらを参考になさってください (別ウインドウまたは別タブで開きます)。今月は「クラリネット」です。なお、今回は一般的に使われている B 管と A 管を中心に説明しています。その他の楽器についてはリンクをご覧ください。
 音名表記はすべてドイツ音名です。


クラリネット
clarinet / Klarinette / clarinette / clarinetto / 单簧管

B または A の楽器
ト音記号
実音の長 2 度 (B) または短 3 度 (A) 上に記譜

材質 木製。グラナディラやローズウッドなど。入門用には ABS 樹脂製もある。稀に金属製もある。
お値段 8 ~ 90 万円くらい。
専門的呼び名 クラ。ラーク。

クラリネット クラリネットは非常にポピュラーな木管楽器の一つで、多様なジャンルの音楽に広く普及している。サクソフォンと同じシングルリードの楽器であり、マウスピースにリードを装着し、リガチャー (締め具) で固定して演奏する。リガチャーは金属製が多いが革製のものもある。後述するエーラー式の楽器は紐で巻くこともある。マウスピースにはエボナイト製やクリスタル製があり、奏者が好みで使い分けている。またリードは南仏産の葦が好んで用いられる。
 クラリネットは現代の管楽器の中では唯一の閉管式の楽器で、管体内部の形状は円筒形である。このため普通の管楽器の倍音列が「ド - ド - ソ - ド - ミ - ソ - シb・・・」と、基音 - 第 2 倍音 - 第 3 倍音の順に倍音列が上がって行くのに対して、クラリネットは基音の上にいきなり 12 度上の第 3 倍音が発生する。したがって、基音列に含まれる 18 半音と同じだけの音孔を持つわけである。クラリネットの前身であるシャリュモーは、第 3 倍音に至るまでに吹奏できない音が存在したが、18 世紀半ばから末にかけてキーが追加されて、音階の空隙が埋められた。

クラリネットの音域

Bb管の音域

B 管

A管の音域

A 管

 クラリネットは移調楽器なので、記譜上の音域は同一でも実音の音域は異なっている。また、クラリネットの基音列を「シャリュモー音域」と呼ぶが、この音域は音量が豊かで、大変ふくよかな美しい音色を発する。


[記譜上の音域]

音域の色々

 上図のように、シャリュモーにキーを加えて出るようになった音域を「ブリッジ」と呼んでいる。ブリッジのの 4 つの音はクラリネットの中で最も音程、音色が優れず、音量にも乏しい。クラリオン音域は明るい華やかな音色である。それ以上の最高音域では音色は非常に鋭くなり、音程を調節するのが困難になってくる。このようにクラリネットは音域によって音色が大きく異なるため、作編曲の際にはその特徴を充分に理解する必要がある。またブリッジからクラリオン音域に移る、いわゆる「ラ~シ」の音階は、運指に大きな隔たりがあり、吹奏感も変わるので、クラリネット奏者にとっての鬼門となっている。
 ラ~シの運指を除けば、クラリネットは大変機能的な楽器で、管弦楽や吹奏楽、室内楽、独奏、ジャズなど、あらゆる場面で活躍している。管弦楽では主要木管楽器 4 種 (フルート、オーボエ、バスーン、クラリネット) の一つであり、定員はほとんどの場合 2 人で、時にはこれに Es 管 や D 管のいわゆる「小クラリネット」や、低音部を担当するバスクラリネットなどが加わることもある。これらの同属楽器はファミリー (またはハーモニー・クラリネット) と呼ばれているが、これについては後述するのでそちらを参照されたい。
ヴューリッツァー 吹奏楽の場合、クラリネットは管弦楽の弦楽合奏的な役割を担っているため定員が多く、少なくとも 9 ~ 12 人、多いところでは 20 人ほどの楽員を擁している。このほかに、弦楽合奏のように低音から高音までを同じ音色で均一に表現するために、吹奏楽では後に述べるファミリーが常用されている。なお、吹奏楽で使用されるクラリネットは B 管が主で、A 管はソロなどの他はほとんど使用されていない。これは主に演奏する曲の調性が関係している。一般に管弦楽ではイ調 (A) の関係調であるニ調 (D) が最も響きが良いと言われているが、これに対して吹奏楽では変ロ調 (B) の関係調である変ホ調 (Es) が演奏しやすく響きも良い。加えて移調楽器が多い吹奏楽では、容易に演奏できる調性が多くなく、吹奏楽曲に使われる調性も比較的限られている。畢竟、A 管に持ち替える場面も少ないわけである。なお音質は A 管の方が若干暗く、深い響きである。
 楽器自体は 5 つの部分からなっている。すなわちマウスピース、バレル (たる)、上管、下管、朝顔である。上管と下管が一つになっているものもある。バレルはピッチを調節するために使用するほか、その下の管の割れを防ぐ役目も持っている。メーカーによっては、チューニングの基準音に合うように、長さの異なるいくつかのバレルをオプションで用意しているところもある。
 キーシステムは、フランスで発達したベーム式が主流である。ベーム式キーシステムをクラリネットに応用したビュッフェとクローゼの名は、現在は楽器メーカーや教則本に残っている。ベーム式のクラリネットについては、基音列が 12 度なので、フルートやオーボエなどの基音列が 8 度の楽器とは運指法が異なる。他にはドイツやオーストリアを中心にエーラー式が使用されている。また戦後しばらくの間は、簡易型とも言えるアルバート式というのも使われていた。これはブリュッセルのアルバートが考案した 13 キーのシステムで、運指はエーラー式に似ている。


クラリネット・ファミリー

クラリネットファミリー

 クラリネットは吹奏楽では弦楽合奏と同等の役割を持つ、大変重要な楽器である。このためクラリネットには、低音から高音までの多くの仲間が存在する。この中には管弦楽では滅多に見られない珍しい楽器も含まれていて、コンサートなどで舞台にファミリーが並んでいる様は、煙突が並んでいるようで壮観である。管弦楽では Es 管や D 管、バスクラリネットが使われる程度である。またモーツァルトが非常にクラリネットを好んだため、バセットホルンやバセットクラリネット、C 管のクラリネットが登場することもある。
 以下のリンクでは、これらの同属楽器を紹介する。なお、楽器の調性を現す「in D」などの表記は慣例に従い、またここだけは英語音名を使用した (別ウインドウにはしていない)。


Sopranino
[Ab Clarinet]

Soprano
[Eb Clarinet] [Clarinet in D] [Clarinet in C] [Basset Clarinet]

Alto
[Alto Clarinet] [Basset Horn]

Bass, Contra
[Bass Clarinet] [Contralto Clarinet] [Contrabass Clarinet]


有名クラリネットメーカー 3 社へのリンク (英語)
<リンク先で各ブランドに分かれています>

Buffet Crampon
Selmer
Leblanc

マウスピースとリードの「Vandoren」へのリンク

Vandoren


クラリネット雑記帳

 私にクラリネットを語らせたら止まらない。
 クラリネットは管弦楽でも吹奏楽でもポピュラーな楽器だが、殊に吹奏楽ではファミリーを含めると十数人の大所帯のため、最も多くの人が経験した管楽器の一つだと思う。オーボエの場合、国内の奏者の数はプロ・アマ合わせても数万人、ファゴットに至っては 2 万人程度と言われている。クラリネットは恐らくその 20 倍程度の人数になると思う。
 管弦楽の場合、同様にヴァイオリンが大所帯なので、奏者の数も多いかと言えばそうでもない。そもそも管弦楽部を持つ学校は非常に少ない。これは弦楽器の習得が非常に難しいことに起因している。しかも管弦楽曲というのは、初歩的な吹奏楽曲のように、調性や音域に教育的配慮が加えられているわけではない。バリバリの職人的奏者が演奏することを前提に書かれているから、死ぬほど難しいのである。また経費のかかることも原因である。弦楽器は非常に値段が高い。一流の管弦楽団でコンマスを務めるような人の楽器は、軽く家一軒買えるくらいの値段がする。それに比べれば管楽器などせいぜい車一台分だから、安いものである。私の演奏するトロンボーンなどは、最高級品でも 30 万円あればお釣りがくる。これでは次に買うつもりのパソコンより安い。
 今までも色々なところで書いたり話したりしたが、私は管楽器の中でクラリネットが最も好きである。余計なヴィブラートをかけずに、つややかな音色だけで勝負するのが潔い。クラリネットの弱音は「静謐」という言葉がぴったり当てはまる。速い音符を軽々を渡っていく様子などは、さながら妖精が森の中を飛び回っているような風情である。
 そういうわけで、私は中学時代に自ら志願してクラリネットを吹かせてもらった時期がある。Es 管だが楽器を買ったこともある。機会さえあればクラリネットで舞台に立ってみたいが、年を取って上達のスピードが著しく衰えたので、これは少し難しいかも知れない。クラリネット教室などに通えば発表会もあるだろうが、このような「自分に合わせたプログラム」では嫌なのである。楽器を持った奏者である以上、やはり「自分がプログラムに追いつく」姿勢で行きたい。私は負けず嫌いなのである。
 色々なコンサートに行くと、時々とんでもなく上手な奏者に出会うことがある。楽器の腕は本人の努力に比例して上がるものだ。彼らはその努力に見合う、正当な技術を身につけているのだと思う。
 練習したい。死ぬほどさらって、上手になって、広いステージで大ソロをぶちかましたいと思う。舞台裏での地味な練習と、明るく華やかな本番とのギャップが大きければ大きいほど、自分の努力を誇ることができる。そういう日が私には訪れるのだろうか。

参考文献:新音楽辞典 (音楽之友社) / 新版吹奏楽講座 (同) ほか
資料提供:ばばさん
記述:1998 年 5 月



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