国民のための管楽器図鑑

 このコーナーでは、いわゆるオーケストラ楽器と呼ばれるもののうち、主に管楽器についての解説をしています。毎回一つの楽器に絞って、その特徴や演奏に関するエピソードなどを紹介したいと思っています。音楽に詳しくない方にもなるべく分りやすいように、専門用語には用語解説のリンクを設けましたので、そちらを参考になさってください (別ウインドウまたは別タブで開きます)。今月は「オーボエ」です。
 音名表記はすべてドイツ音名です。


オーボエ
英伊 oboe / Oboe / hautbois / 双簧管

C の楽器 / ト音記号 / 実音の 8 度下に記譜

材質 木製。グラナディラやローズウッドなど。入門用にはエボナイトや ABS 樹脂製などもある。
お値段 25 ~ 180 万円くらい。
専門的呼び名 オーボケ (どちらかというと揶揄を含んだ呼び方)。

オーボエ オーボエは一般に「ダブルリード」と呼ばれていることからも分かるように、リードが 2 枚で構成され (複簧という)、これを口唇でくわえ込んで振動させる。リードは歌口 (マウスピース) に固定させるわけではなく、直接楽器に装着するので、差し込み具合で自由にピッチを調節することができない (左の写真はリードを装着していない状態)。したがって合奏時は他の楽器がオーボエのピッチに合わせてチューニングするのが普通である。また同様の理由で、楽器を購入する際には、設計上のピッチを考慮しなければならない。最近の管弦楽や吹奏楽ではピッチが上がってきていて、ほとんどの場合 A = 442 か 443Hz でチューニングを行う。ただし、これは国や、演奏する曲の作曲された年代によっても異なるので、それぞれに合った設計の楽器を使用する必要がある。リードの差し込み具合で多少の調整はできるが、音色やバランスを損なうので注意が必要である。

オーボエの音域

1 図「オーボエの音域」


 オーボエは実音で記譜される。音域は 1 図の通りで、さらに上の Gis や A までの運指法もあるが、実際に演奏するのは大変難しい。最低音域や最高音域を出すのも難しく、特に弱音でのアタックや、ディミヌエンドして消え去るような曲の演奏は困難を極める。ただしオクターブキーを使用する割には、倍音列によって音色が変わることが少なく、また息が少なくて済むため、長いフレーズを余計にブレスすることなく、滑らかに演奏することができる。しかしこのことはメリットもあるが、逆に言えば「息が余る」ということでもある。管楽器を演奏する際は、うまくブレスを取ってリズムに乗ることが重要であるが、速い曲などでは悠長に息継ぎをしている暇などない。そのような時に余った息を「吐いて吸う」という余計な手間のかかるオーボエは不利である。また、息が足りない苦しさよりも、息が余る苦しさの方が辛いこともあって、オーボエの演奏はかなり体力を消耗する。
 オーボエは管弦楽吹奏楽などで使用される。管弦楽では主要木管楽器 4 種 (フルート、オーボエ、バスーン、クラリネット) の一つである。定員は管弦楽も吹奏楽も 1 ~ 2 人である。2 人の場合は第一と第二の 2 つのパートに分かれる。楽曲によっては、イングリッシュホルンに持ち替える場合などもある。時には第三オーボエが加わることもあるが、普通のオーケストラではオーボエ奏者を三人も雇う余裕はないので、こういう場合はトラを呼ぶ。
 一昔前のアマチュア吹奏楽団では、現在のようにダブルリード楽器が普及していなかった。これは楽器が高価なことや、演奏技法の習熟に時間がかかること、指導者の不足などの原因が挙げられる。こういった場合は譜面に指定されたオーボエのパートを、フルートやクラリネット、ソプラノサクソフォン、ミュートをつけたトランペットなどで代用していた。現在もオーボエやバスーン奏者を複数擁する楽団は多くなく、その他のオーボエ・ダモーレやバスオーボエを所持する楽団は皆無である。ヘッケルフォンに至っては、国内に何本あるのかというほど珍しい楽器である。


有名オーボエメーカー 3 社へのリンク (英語)

Rigoutat
Marigaux
Lorée

全国のダブルリード奏者がお世話になっている「JDR」へのリンク

日本ダブルリード株式会社


オーボエ雑記帳

 オーボエは三重苦の楽器である。触ったことがある人ならすぐにピンとくるだろうが、何しろオーボエという楽器は非常に難しい。他の管楽器と同じスピードで上達しようと思ったら、その 10 倍くらい練習しないと追いつかない。ホルンとともに「最も難しい楽器」ということでギネスブックに載っているというのは有名な話である (私はまだ読んだことがない)。楽器を難しいかどうかだけで論じるべきではないということは承知しているが、私自身が普段のっぺりした楽器でのっぺりした譜面を吹いているだけに、何だか申し訳なく思えてくるのである。ちなみに「最も易しい楽器」はウクレレらしいが、本当だろうか。
 オーボエは楽器の調整も難しい。オーボエを構成するコンセルヴァトワール式キーシステムの部品数は 400 個以上にもなる。キーを一つ押さえると、トーンホールをふさぐカップが 4 つも 5 つも連動して動く。少しでも調子が狂うと特定の音が出なくなったりして、それが本番中に突然起こったりするから油断できない。そしてまた、そういう音に限って大ソロの大切な音だったりする。だから、オーボエ奏者は本番に向けて充分な練習を積んでいても、別の意味で緊張することが多いという。
 もう一つはリードである。オーボエ奏者の多くはリードを自分で作ったり、半完成品を買ってきて自分用に仕上げて使っている。完成品も売ってはいるが、それをそのまま本番に用いることはまずない。クラリネットやサクソフォンなどのシングルリードの場合、新品のリードを買ってきて、具合のいいのは「10 枚のうち 2、3 枚」だというが、ダブルリードの場合は「そのまま使えるものはない」と言い切る。だから、自分で作るなり削るなりして用意した「お気に入りリード」は、コンディションを保ちながら大切に本番用に取っておくのである。もちろん予備も忘れない。
 リードで思い出すのは、高校時代の部活である。私が所属していた吹奏楽部では、アルバイトしている生徒はいなかった。したくても、練習ばかりでそんな時間はなかった。
 リードというのは消耗品である。例えば標準的な Bb や A 管のクラリネット用のリードの場合、最も人気のあった「バンドレン」というフランスのメーカーのものが、10 枚一箱で 2,200 円くらいだったと思う。1 ヶ月の小遣いの多くを割いてリードを一箱買っても、使えそうなのは数枚程度だったから、木管楽器の女の子たちは気の毒だった。自分の楽器を愛して、お金もかけているのに、ちょっとミスしたくらいでボーフリに「ヘタクソ」だの「イモ」だの言われては、ヘソを曲げるのも仕方がない。木管楽器は金管楽器に比べると格段に維持費がかかる。なぜなら木管楽器には有機物が多く使われているからである。リードは葦の茎を乾燥させたものである。毎日同じリードで練習すると数日ももたない。楽器のトーンホールを押さえるカップにはタンポが入っているが、これは表面が羊の腸間膜でできている (サクソフォンのタンポは羊の皮)。手入れが悪いとタンポは数ヶ月でダメになる。普通は 2 ~ 3 年に一度は全部交換した方がいいのだが、この費用は約 8 ~ 12 万円くらいかかる。楽器のジョイントにはコルクが使われているし、そもそも本体が木でできているのである。練習すれば管は唾で濡れるから、長持ちさせるには丁寧に掃除しなければならない。もし湿気などで管体に割れが生じたら、その楽器はおしまいである。
 こんなに面倒で手間がかかり、その中でも殊更に難しいオーボエなのに、なぜ何世紀もの間、この楽器に惹かれる人が後を絶たないのか。それは、オーボエという楽器が、その苦労に見合うだけの美しい音色を持っているからである。オーボエはソロ楽器と言い切ってもいい。オーケストラはオーボエの伴奏のために存在するのではないか、というくらいソロだらけの楽器である。訓練された伴奏の上で美しいソロを歌い上げれば、ミューズの神様に触れられたような気がする。その一瞬の無上の喜びのために、オーボエ奏者は今日もリードを削るのである。

参考文献:新音楽辞典 (音楽之友社) / 新版吹奏楽講座 (同) ほか
記述:1998 年 3 月



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