猫の毛色と遺伝 (11)

被毛に関するその他の遺伝子

- オホースアズーレス -
青目の三毛 [ww Oo A- B- C- ii D- SS Oj-]



10. 被毛に関するその他の遺伝子

10-1. 毛色に関するその他の遺伝子

Ba 遺伝子座
対立遺伝子 Baba  未解明遺伝子です。
 「バーリントン・ブラウン」という呼び名の遺伝子が存在するそうです。この遺伝子が働いた猫の毛色がキャラメル色に近かったので、色彩修飾遺伝子 Dm が関与していると誤解したブリーダーもいたようです (色彩修飾遺伝子についてはこちらを参照)。研究室の中だけで確認されていて、それ以外の場所に存在するかどうかは分かりません。
 交配実験の結果では、ホモ接合体の時にだけ形質が現れ、ヘテロでは現れなかったので、劣性遺伝とされました。遺伝子座は暫定的に Ba が割り当てられていて、 baba の時に、黒はマホガニー色、チョコレート色はミルクコーヒー色になったりしたそうです。
働き 毛色に相加効果を生じない
優劣 Baba

Sa 遺伝子座
対立遺伝子 Sasa  Sa 遺伝子座は、被毛にサテンのような柔らかさと煌めきを与えます。
 Sa- では何も起きませんが、劣性の sasa になると、被毛が美しくきらきらと輝きます。これはゴールドダスト効果とか真珠効果などと呼ばれています。ハムスターなどの齧歯類ではたびたび観察される現象で、毛幹の表面が平滑ではなく、カットしたダイヤモンドのように多面体状になっているので、光を乱反射してきらきらするそうです。猫においては、現時点ではテネシーレックスのみに見られるそうです。
働き 被毛に煌めきを生じない
優劣 Sasa
テネシーレックスゴールドダスト (テネシーレックス)
  http://www.tennesseerex.com/

Wb 遺伝子座
対立遺伝子 Wbwb  7 章で、アグチパターンから褐色だけが抜けて、被毛を銀色 (シルバー) にする I 遺伝子座を紹介しましたが、この遺伝子座が I- の時に限って、さらに毛色を変化させるのが Wb 遺伝子座です。変化の内容は A 遺伝子座との組み合わせによって決まり、毛色を銀色や金色にしたり、スモークやシェードといった模様を生じさせます。
 両者の関係を下表に示します。スモークは燻したような黒で覆われた毛色です。シェードはまだらな霜降りのような毛色です。
 街なかでもたまに見かける毛色です。

 
Wb 遺伝子座による毛色の変化
Wb 遺伝子座 A 遺伝子座 毛色
Wb- A- 銀 (通常模様/シェード/霜降り)
Wb- aa 銀 (スモーク)
wbwb A- 金 (通常模様/シェード/霜降り)
wbwb aa 金 (スモーク)
働き 銀色や金色にする
優劣 Wbwb
スモーク猫スモーク猫 (Black Smoke with Silver Undercoat)
  http://lavoixcats.se/

Dg 遺伝子座
対立遺伝子 Dgdg  未解明遺伝子です。
 この遺伝子を持つ猫は、銀色として生まれてきたにもかかわらず、2 ~ 3 才で金色になる可能性があるそうです。また、この遺伝子を持つ場合、金色の親から銀色の子猫が生まれるかも知れないとのことです。
 優性で発現するのか、劣性で発現するのかも、今のところ分かっていないそうです。
働き 時間とともに毛色を変える
優劣 Dgdg

E 遺伝子座
対立遺伝子 Ee  この遺伝子は、黒の素であるユーメラニンと、褐色の素であるフェオメラニンの量を変化させます。優性遺伝子 E はユーメラニン、劣性遺伝子 e はフェオメラニンを担当します。
 この遺伝子の作用が確認されているのは、現在のところ、ノルウェージャンフォレストキャットのアンバーと、ベンガルのルーファスだけだそうです。他の品種にも発現しているかも知れませんが、シナモンやフォーン色と酷似しているため、分かりにくいのだそうです。
  E- では、他の毛色の遺伝子の通りに発色します。劣性の ee の時は、主に胴体のユーメラニンをフェオメラニンに変換します。その結果、被毛の黒い部分はアンバーに、灰色の部分はライトアンバーに変化します。
働き 毛色を拡張しない
優劣 Ee
Amber Mackerel TabbyAmber Mackerel Tabby (Norwegian Forest Cat)
  http://nl.wikipedia.org/

Gl 遺伝子座
対立遺伝子 Glgl  野性味あふれる品種として知られているベンガルには、被毛がきらきらと金色に煌めく特徴を持つものがいます。これはグリッターと呼ばれています。
  グリッターは Gl 遺伝子座が関与していて、劣性の glgl の時に発現します。
  この遺伝子は、ベンガルを作出する際に使われた、野生種のベンガルヤマネコやマーゲイ、あるいは交配の相手であるイエネコのいずれかから引き継いだものと考えられています。
働き 被毛に煌めきを生じない
優劣 Glgl

Mi 遺伝子座
対立遺伝子 Mimi  ベンガルのグリッターには銀色に輝くものもあります。英語では mica glitter (雲母の煌めき) と呼ばれています。
 銀色のグリッターは Mi 遺伝子座が関与しています。劣性の mimi の時に発現します。
働き 被毛に煌めきを生じない
優劣 Mimi

A 遺伝子座
対立遺伝子 APba  アグチパターンを司る A 遺伝子座はとうの昔に説明しましたが、ここで紹介するのは新しい対立遺伝子です。
 この遺伝子はまだ研究中のようです。ベンガルにはチャコール色になる個体があり、関与している遺伝子を調べている段階だそうです。
 チャコール色のベンガルは、A 遺伝子座がヘテロ接合体ということまでは分かっていて、優性対立遺伝子に何らかの変異があると考えられています。その対立遺伝子は APb という遺伝子記号で表され、野生種のアジアンレパードから受け継いだものだそうです。
 変異体である APb と区別するため、イエネコのアグチ遺伝子 (A) を AFc と表記した場合、優性ホモの APbAPbAFcAPbAFcAFc で普通のベンガルの被毛色になり、ヘテロの APba の時にチャコール色になるとされています。劣性ホモの aa の場合はノンアグチですから、上位遺伝子の O がなければ「ベンガルの黒猫」が生まれることになります。
 APbA (AFc) との優劣関係は不明です。
働き 不明
優劣 APba

Sb 遺伝子座
対立遺伝子 Sbsb  「ソックス」とか「靴下」などと呼ばれる、四肢の先端が白くなっている猫がいます。これらは Sb 遺伝子が関わっているとされています。Sb- の時にソックスになります。
 ただ、白斑を生む遺伝子には不明なことが多いらしく、先に紹介した S 遺伝子座S- の時に生じる白斑が、たまたまソックス状になっている可能性もあるようです。
 なお、バーマンのソックスに限っては、別の遺伝子 (G) が関与しています。
働き 四肢の先端を白くする
優劣 Sbsb

G 遺伝子座
対立遺伝子 NG  四肢の先端が白いソックス猫の中でも、バーマンに限っては、G 遺伝子座が関与して発現するそうです。この遺伝子は KIT 遺伝子と呼ばれ、動物やヒトの白斑の配置に関わっているそうです。
 実験の結果、劣性突然変異の時にソックスになったので、遺伝子型は GG です。 NGNN ではソックスになりません。
 現時点では現象が確認された段階で、遺伝子記号は仮のものだと思います。
働き 四肢の先端を白くする
(バーマンに限る)
優劣 NG

Spy 遺伝子座
対立遺伝子 Spyspy  ヨークチョコレートの白斑は、S 遺伝子座ではなく、この Spy 遺伝子座が司っているそうです。
 Spy- の時に白斑が生じ、劣性の spyspy では白斑がありません。
働き 白斑を生じる
(ヨークチョコレートに限る)
優劣 Spyspy

Oj 遺伝子座
対立遺伝子 Ojoj  青い目が特徴の「オホースアズーレス」という品種の猫がいます。四肢や尻尾の先端などに白い毛が混じることもあります。
 これらの特徴を発現させるのは、現在のところ遺伝子 Oj と言われています (遺伝子記号を Oa としている文献もあります)。Oj- の時にこれらの特徴が発現し、ojoj では発現しません。
 青目の猫というと、C 遺伝子座が劣性のポイントカラーが最も一般的ですが、この Oj 遺伝子の場合は毛色に影響を与えません。聴覚障害も伴いません。
 W- の遺伝子を持つ白猫にも発現するそうなので、かなり強力な遺伝子と言えますが、その場合、Oj 遺伝子が原因なのか、それとも C 遺伝子座が起因しているのか、外見から判断することはできません。
 優性ホモの OjOj が頭蓋奇形をもたらすなど、この遺伝子は猫の健康に深刻な影響を与えるため、オホースアズーレスの繁殖プロジェクトは放棄されたそうです。
働き 目を青くする
優劣 Ojoj
オホースアズーレスオホースアズーレス (茶渦白)
  http://gatos.facilisimo.com/

10-2. 模様に関するその他の遺伝子

Bg 遺伝子座
対立遺伝子 Bgbg  ベンガルの模様には、マーブルと呼ばれる渦巻き型と、スポッテッドと呼ばれる斑点の 2 種類あり、どちらにもロゼットと呼ばれる濃淡が生じます。ロゼットはほかのイエネコには見られない、ベンガルだけの特徴です。
 ベンガルにおけるマーブルとスポッテッドの関係は、ほかのイエネコにおけるトラ模様 (Mc-) と渦巻き模様 (mcmc) と同様で、ロゼットに対してスポッテッドが劣性なのだそうです。つまり、ロゼットは Bg-、スポッテッドは bgbg ということになります。
 この遺伝子座は便宜的なもので、公式なものではないそうです。また、交配に使われた野生種の模様に関連するものでもないそうです。
働き 渦巻き模様にする
(ベンガルのロゼット)
優劣 Bgbg

10-3. 形状に関するその他の遺伝子

Yuc 遺伝子座
対立遺伝子 Yucyuc  Yuc 遺伝子座はまだ仮説の段階で、ヨークチョコレートという品種の猫において、アンダーコート (下毛) の有無を決定するとされています。
 猫のアンダーコートはとても細く、0.01 ~ 0.02mm しかありません。この毛が最下層に密集して生えることによって、防寒の役割を果たしています。
 Yuc- の時にアンダーコートがなくなります。暑い気候の地域では、アンダーコートがない方が有利なので、ヨークチョコレートだけでなく、他の品種でも作用している可能性があります。
働き アンダーコートをなくす
優劣 Yucyuc
ヨークチョコレート縮毛 (ヨークチョコレート)
  http://www.kucing.biz/

Rd 遺伝子座
対立遺伝子 Rdrd  オランダレックス (Dutch Rex) と呼ばれる猫は、ほかのレックス系と同様に縮れ毛を持っています。1968 年にオランダで発見されたそうですが、その後何匹か見つかっただけで、血統としては途絶えているようです。この猫の縮れ毛は優性遺伝です。Rd- の時に被毛が縮れます。体の部位によっては、無毛に近くなる箇所もあったそうです。
働き 縮れ毛にする
(オランダレックス)
優劣 Rdrd
オランダレックス縮毛 (オランダレックス)
  http://www.messybeast.com/

Hd 遺伝子座
対立遺伝子 Hdhd  レッドカー・へアレスは、1977 年にイギリスのレッドカーという町で観察された無毛猫です。生後 2 週間~ 3 ヶ月以内にすべて死亡したそうです。
 レッドカー・へアレスにおける無毛の遺伝子型は劣性の hdhd ですが、hd は致死遺伝子だったようです。
働き 無毛にする
(レッドカー・へアレス)
優劣 Hdhd

H 遺伝子座
対立遺伝子 Hh  無毛の猫にはフレンチ・へアレスというのもいたそうですが、詳しいことは不明です。劣性の hh で無毛になるそうです。
働き 無毛にする
(フレンチ・へアレス)
優劣 Hh

 この章では、あまり知られていない遺伝子のうち、被毛の色、模様、形状を司っているものを紹介しました。
 次は身体の形状や障害に関連する遺伝子を紹介します。


(1) はじめに / イエネコの先祖 / メンデルの法則
(2) 被毛のバリエーション / 無地の遺伝子型
(3) 被毛の色に関する遺伝子
(4) 被毛に模様に関する遺伝子
(5) 野外の猫を観察する ─無地の猫─
(6) 野外の猫を観察する ─トラ模様の猫─
(7) 野外の猫を観察する ─渦巻き模様の猫─
(8) 野外の猫を観察する ─混色系の猫─
(9) 野外の猫を観察する ─その他の模様の猫─
(10) 被毛の形状に関する遺伝子
(11) 被毛に関するその他の遺伝子

続く・・・。


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