線路を歩こう。

西武鉄道安比奈線

その 1 「安比奈駅→八瀬大橋」

 


 2009 年 3 月 11 日、以前から行きたかった西武鉄道安比奈 (あひな) 線を探訪してきたので、「線路を歩こう。」シリーズの第 2 弾としてレポートします。天気は薄曇りで写真を撮るにはちょうど良かったのですが、あまり体調が良くなかったので、全部で 7.3km ほど歩きましたが結構きつかったです。
 レポートに入る前に安比奈線の沿革を簡単に書いておきます。

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 安比奈線は西武鉄道の貨物線で、南大塚駅~安比奈駅の 3.2km を単線で結んでいます (下の地図の赤い線)。入間川で採取した川砂利を運搬するため 1925 (大正 14) 年 2 月に開業し、1949 (昭和 24) 年 2 月には電化もされました。その後、1967 (昭和 42) 年に入間川の砂利採取が禁止されたため、列車が運行されることはなくなり、路線も休止したまま放置されています。ここでミソなのはあくまで休止であって「廃止」ではない点です。かつて西武鉄道では、新宿線の西武新宿~上石神井を複々線化する計画があって、南入曽車両基地だけでは容量が足りなくなってしまうため、安比奈線を使って新しい車両基地を建設することになっていました。複々線化計画は、のちの景気悪化や少子化の影響で頓挫しましたが、車両基地の方はいずれ実現するようです。そのため、安比奈線も完全に放置されているわけではなく、それなりに補修などの整備がされているようです。
 車両基地の設置とともに、地元川越市では旅客線としての復活を期待しているようで、新駅の設置や的場駅 (JR 川越線) への延伸などが答申されているそうです (個人的にはそんなことよりもここに駅を作って欲しいです)。

安比奈線
↑黒い線は新宿線。赤い線が安比奈線。全線単線で交換施設などはありません。


安比奈線航空写真1964年 右の写真は 1964 (昭和 39) 年に撮影された航空写真です。安比奈線の全盛期と思われるころで、写真にも線路や駅の様子がはっきり写っています。小さくて見づらいですが、写真にマウスカーソルをかざすと、黄色い線で路線を表示します。このころは八瀬大橋も関越自動車道も影も形もありません。国道 16 号線を踏切で交差しているようですが、当時と今では交通量は雲泥の差です。今もし国道 16 号線に踏切なんて作ったら、大渋滞が起きて苦情が殺到するでしょう。
 ところで、西武鉄道には安比奈線以外にも川砂利運搬のために敷設された路線がいくつかあります。その中で唯一営業が続けられているのが多摩川線で、もともとは多摩川の砂利採取のために敷設されましたが、現在はもっぱら通勤線として使われています。また、池袋線の元加治駅から入間川を結ぶ線もあったそうです。こちらは延長が 3km に満たないので、側線扱いではなかったかと想像しています。
 関東大震災や第二次世界大戦からの復興に始まり、高度経済成長に至るまで、建設材料として夥しい量の砂利が河川から採取されたそうですが、それによってさまざまな環境的問題が起こってきたため、1970 (昭和 45) 年ごろまでにはほとんどの河川で砂利採取が禁止されました。八瀬大橋付近の私有地では現在も採取が続けられていますが、輸送は大型ダンプカーに頼っているようです。

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 安比奈線の探訪を紹介したサイトはかなり多いのですが、ほとんどが南大塚から安比奈に向かう行程で書かれているようなので、今回の探訪では逆に安比奈から南大塚まで歩いてみました。
 また、今回のレポートは、いつもの「だ・である体」ではなく「です・ます体」で書きました。昔、私の文章を読んだ恋人に「偉そうだ」と言われたことがあるので、珍しくフレンドリー (?) にいってみます。
 最後にコーナーの構成について説明します。小さなサムネイル写真 (320 × 240 ピクセル) をクリックすると、別ウインドウまたは別タブで大きな画像 (1,024 × 768 ピクセル) を表示することができます。コメントの最後にある [MAP] をクリックすると、、別ウインドウまたは別タブで撮影地点の地図を表示することができます。地図は電子国土Yahoo! 地図のサービスを利用しています。今回は特に航空写真に切り替えてご覧になると面白いと思います。動画もありますので、最新のブラウザでご覧ください。
 探訪中の現在地点の把握には、携帯電話のナビログ機能を使いましたが、必ずしも正確ではないことをご了承ください。


安比奈駅→八瀬大橋 (0.7km)
安比奈駅→八瀬大橋



001  安比奈駅付近に行く交通機関はとても少ないのですが、川越市のコミュニティバス「川越シャトル」の 23 系統が割と近くを通ります。今回は南大塚駅を 12:15 に発車する便に乗り、20 分あまりで最寄りの泉福寺バス停に着きました。着くまでに安比奈線を 3 回渡りました。この系統は 1 日 3 本しかありませんが、川越駅西口または南大塚駅北口から 24 系統も利用できます (24 系統は火・木・土曜日のみ運行)。Suica や PASMO も使えます。タクシーの場合は南大塚から西武建材安比奈工場までで 1,700 円ぐらいだと思います。
[12:39] [MAP]

 泉福寺バス停から 20 分ほど歩いて、安比奈駅の先端と思われる地点に到着。かなり広い (というか長い) 構内です。構内の始まりは、単線だった線路が分岐するのではっきり分かるのですが、終わりの方は藪が多くてよく分かりません。架線柱は写真に写っているのが最後です。右の木の陰には線路の先端があります。ここから南大塚に向けて探訪を開始します。 002
[13:01] [MAP]

003  確認できる範囲で最も先端にあった線路。しかしこれ、幅が 1,067mm よりもだいぶ狭いし、線路の間はピットのように掘られています。近寄って眺めてみましたが、経年変化などではなく、もともとこのように作られていたようです。安比奈線は川から採取した砂利を運んでいたわけなので、河原から安比奈駅まで「別の何か」で運んでいた可能性もありますが・・・。見た感じでは 30 ~ 37kg 程度のレールだと思います。
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 上の写真から 4 ~ 50m 進んだ地点。線路の真ん中に木立ちができています。線路の幅はいつの間にか 1,067mm になっていました。どこで軌間が変わっているのか知りたかったのですが、枯れ藪が深くて見つけられませんでした。レール自体は先ほどと同じく 30 ~ 37kg だと思います。 004
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005  線路の真上に立って、南大塚方向を向いているはずなのですが、全然そういう風には見えません。冬でもこうなのだから、夏場はとても足を踏み入れられないでしょうね。2 本立っている電柱は、右が架線柱で左が電信柱のようです。
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 線路は藪に埋もれているので、道路に出なければ前に進めません。しかし道路も水はけが悪くてこの通り。この日は普通の靴でも大丈夫でしたが、雨のあとは長靴が必要かも知れません。写真には写っていませんが、左側には入間川の河原があります。川の対岸に「安比奈新田」という地名がありますが、こちらは「あいなしんでん」と読みます。 006
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007  正面にまともな架線柱が見えてきました。
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 付近には粗大ゴミがたくさん投棄されています。奥に見える白や黒のパイプは PF 管の切れ端のようです。家庭から出た粗大ゴミだけでなく、産廃も捨てられているようです。車が入れて人目がなければ、大抵このようなことになります。 008
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009  何とか鉄道施設らしく見える場所まで来ました。目の前にあるのは単線用の架線柱で、左奥には複線用のが見えます。少し見づらいですが、コンクリート製の車止めもあります。たとえ安比奈線を復活しても、ここに駅ができることはもうないでしょう。
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 もう少し進んでみると架線柱が 2 組ありました。さっきの写真には単線用の架線柱も写っていたので、少なくとも 4 ~ 5 条はあることになります。 010
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011  それにしても、列車が走らなくなって 42 年経つとはいえ、ここまで荒れるものでしょうか。河川敷なので、もしかしたら増水時には水に浸かることがあるのかも知れません。奥に見える橋は水道橋で、人は渡れません。八瀬大橋が近いので不便ではありませんが、これだけのものを作るなら、ついでに自転車ぐらい通れるようにしてもいいと思うのですが。
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 この架線柱は 3 線分あるようですが、線路は埋もれてしまってまったく見えません。架線柱の様子や航空写真からすると、左側の緑の竹藪にも 2 線敷かれているようです。竹藪は諸般の事情により踏み込みませんでした。 012
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013  水道橋をくぐるとポイントがありました。すごいところに木が生えています。線路の存在など無視するかのような生えっぷりです。
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 ポイントを突き抜けた木を振り返って撮影。根元はどうなっているんだろう。 014
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015  打ち捨てられた転轍器標識と、「工」マークの境界標。真っ黄色の転轍器標識は初めて見ましたが、どうやらこれは誰かが塗ったらしいです。
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 何条もあった線路が 1 条になり、ようやく安比奈駅を出発します。今まで見てきた風景や航空写真などから、構内配線は 5 条かそれ以上あったのではないかと考えています。うちいちばん南側の 1 条が最も長くて、河原から登ってきたインクラインか何かと接続していたかも知れません。先ほどのナローゲージのピットらしき穴は、インクラインの巻き上げ機が入っていたとも考えられます。今回は事前調査一切なしなので、目で見たこと以外はすべて憶測ですが。 016
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安比奈駅周辺(1961年)
↑1961 (昭和 36) 年の安比奈駅周辺の航空写真。
安比奈駅の先にも線路が伸びているらしいことが分かります。

安比奈駅周辺地図
↑上の写真だけでは分かりづらいので、地図で表してみました。
簡易軌道というのは憶測ですが、ナローゲージの線路が残っていたのも事実です。



017  枕木がないのでレールがだいぶへろっています。バラストもないに等しい状態です。レールに製造年が刻印されていないか見てみましたが、錆や汚れで確認できませんでした。ただ、どうもここで使われているのは輸入品のようです。昭和初期までは輸入レールが使われていたようなので、年代的には辻褄は合います。樹木が建築限界を突破しまくっていますが、もし安比奈線を復活させるとしたら、これらの木を切り倒すだけでなく、根っこごと除去しなければならないので、かなり手間のかかる作業になりそうです。
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 交差する道路を右に行くと先ほどの泉福寺バス停へ、左に行くと八瀬大橋をくぐって西武建設の砂利採取現場があります。このため、この道路は砂利を積んだダンプカーがひっきりなしに行き来しています。最徐行で走っているので危険ではありませんが、砂利道なので天気がいいと埃がものすごいと思います (この日は水溜まりが多かった)。川砂利の採取は禁止されたと思っていたのですが、私有地は関係ないようです。 018
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019  その砂利道を渡ると、右手にモトクロスの練習場があります。あまり高い丘はないですが、練習にはいいコースです。平日でしたが何台か走っていました。
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 モトクロス場のコース入口の横に柵が立っています。ライダーに「こっちに入るな」と伝えているのかも知れません。その先には八瀬大橋が見えています。架線柱には架線がありません。朽ちて落ちたとかではなく、きれいに撤去してあるようです。 020
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021  モトクロス場を過ぎると緩やかに右カーブが始まります。安比奈線は全線を通してカーブが 2 箇所しかなく、残りの 1 つは国道 16 号線を渡った先にあります。
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 いよいよ八瀬大橋が近づいてきました。安比奈線はここで完全に分断されています。安比奈線復活について語られる時は、決まってこの部分が問題になるようです。ただ、本当に復活するにしても、さっきのような不毛な土地に駅を作ることはせず、この橋の向こう側にもう 1 本橋をかけて入間川を渡り、JR 川越線に連絡させるのがよろしいのではないかと思います。それにしても橋の高さは低いし、線路は橋台にぶち当たっているし、もう絶対通さないと言わんばかりの作りですね。 022
[13:24] [MAP]

023  八瀬大橋を越えるため、少し迂回して橋の上に来ました。橋桁の下を通れば楽で早いのですが、諸般の事情でこうなりました。架線柱はこの先ずっと続きますが、信号機は 1 つも見かけませんでした (国道 16 号線踏切で踏切動作反応灯のみ発見)。また、レールだけでなく電柱や標柱などに年式が書かれていないか見ましたが、コンクリート製の架線柱に「昭和 43-9」と書かれていたのが唯一でした。架線については、電気を流すトロリー線はほぼ撤去されていて、トロリー線を吊るす吊架線が部分的に残るだけです。ただ、吊架線は定期的に交換されているようで、中には錆のない真新しいのもありました。どういう基準で保守しているのかよく分かりません。安比奈線は電化路線ですが、そういうわけなので通電していません。
[13:28] [MAP]


─ その 1 「安比奈駅→八瀬大橋」 ─
─ その 2 「八瀬大橋→赤間川」 ─
─ その 3 「赤間川→南大塚駅」 ─


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