国民のための管楽器図鑑

 このコーナーでは、いわゆるオーケストラ楽器と呼ばれるもののうち、主に管楽器についての解説をしています。毎回一つの楽器に絞って、その特徴や演奏に関するエピソードなどを紹介したいと思っています。音楽に詳しくない方にもなるべく分りやすいように、専門用語には用語解説のリンクを設けましたので、そちらを参考になさってください (別ウインドウまたは別タブで開きます)。今月は「ユーフォニウム」です。
 音名表記はすべてドイツ音名です。


ユーフォニウム
euphonium / basse à pistons / Barytonhorn / flicorno basso / 上低音号

B の楽器
へ音記号またはト音記号
実音 (へ音) または実音の長 9 度上 (ト音) に記譜

材質 真鍮製にラッカーを塗布したり、金や銀、ニッケルメッキを施したものなどがある。
お値段 15 ~ 150 万円くらい。
専門的呼び名 ユーフォ。

ユーフォニウム ユーフォニウムは中低音域を受け持つ比較的歴史の浅い金管楽器で、3 本または 4 本のピストンバルブで音階を奏する。バルブの操作法はトランペットなどと同様で、マウスピースに近い側から順に 1 ~ 3 (または 4) 番が与えられ、それぞれ異なった長さの迂回管が取りつけられている。管長はピストンを開放した状態が最も短く、1 番を押すと倍音列全体の音程が 1 全音分下がる。同様に 2 番では 1 半音分、3 番では 1 全音 + 1 半音分下がるので、この組み合わせで音階を奏するのである。また 4 番については二つの種類があり、一つは音程補正用としての役割を持つ場合で、1 番と 3 番ピストンを合わせた管長の迂回管を持ち、音程は 2 全音 + 1 半音分下がる。もう一つはコンペンセイティング・システムと呼ばれるセミダブル式の楽器で、4 番を押すと楽器全体が F に移調される。この方式はイギリスの Boosey & Hawkes 社が 1878 年に特許を取ったものであるが、管の形状が複雑になるため楽器の重量が増し、価格も高くなるという短所を持つ。なお、ユーフォニウムはチューバとともに、分類上は全管楽器なので、理論上は基音を出せることになっていて、実際に基音を奏するのは容易である。しかし近年の奏者の著しい技術向上によって、半管楽器であっても基音を出せる奏者が多くなり、これらの分類は無意味なものになりつつある。また、ユーフォニウムのマウスピース (写真右下) はトロンボーンのそれとほぼ同じで、カップの直径が 25 ~ 27mm 程度のものが標準的に用いられている。このため両者のマウスピースの規格が共通の使用になっているメーカーもある。
マウスピース ユーフォニウムは大変分類の難しい楽器である。1846 年にベルギーのアドルフ・サックスが発明した金管楽器のうち、basse a pistons と呼ばれる楽器が原形だが、この系列の楽器は現在バリトン (サクソルン属) に分類することができる。ユーフォニウムとバリトンの区別ははっきり定義されていないが、管の内径が太く (おおむね 13.35 mm 以上)、ヘ音記号で記譜するものをユーフォニウム、内径が細くト音記号で記譜するものをバリトンと呼ぶ方向でまとまりつつあるようである。ピストンバルブの数で分ける考え方もあるようだが (3 本はバリトン、4 本はユーフォニウム)、あるメーカーで、バルブ数以外は同じ仕様で製造されいるシリーズがあり、それらが「ユーフォニウム」として分類されていることを考えると、ピストン数で分類するのは不適切と考られる。このことはまた、バルブの数によって左右されるのは楽器の機能であって、音色や奏法が変わるわけではないことからも言える。このほか、管弦楽ではテナーチューバの呼称を用いることもあり、これをユーフォニウムで演奏する場合と、ロータリーバルブを備えたドイツ式の楽器 (ワーグナーチューバの一種) で演奏する場合があるため、ますます混乱の度を深めている。ちなみに 1921 年にはイギリスで楽器標準化会議が行われ、そこではバリトンの呼称は金管バンドで用いられることになり、吹奏楽ではもっぱらユーフォニウム に統一することになったという記録があるが、管弦楽に関する記述はない。

ユーフォニウムの音域


 ユーフォニウムは 3 本ピストンの楽器はテナートロンボーン、4 本ピストンの楽器はテナーバストロンボーンと同様の音域だが、バランスが良くないため、前述のような音程補正システムや、またはユーフォニウム用に発明されたトリガーを用いて音程を調整している。記譜法については、おおむねバリトンがト音記号を用いて実音の長 9 度上に記譜し、ユーフォニウムがへ音記号を用いて実音で記譜することになっているが、もともと吹奏楽の分野ではどちらの楽器も同様に扱われてきたため、厳密なものではない (ただし同一の楽曲で音部記号を混用することはない)。ここで注意が必要なのは、ユーフォニウムやバリトンは基本的に B (変ロ調) の移調楽器ということである (C 管も存在するが我が国ではほとんど使用されない)。移調楽器であるにもかかわらず、実音で記譜する場合と、記音で記譜する場合のあることが、この楽器の系統や記譜法を一層分かりにくいものにしている。この理由として考えられるのは、我が国の吹奏楽編成ではユーフォニウムは「低音金管楽器」の一つとして、トロンボーンやチューバ (どちらも B の移調楽器だがヘ音記号で実音記譜) とともにグループを作っているのに対して、バリトンが活躍するフランスやイタリアなどでは、サクソルン属のファミリーの一つとして扱われているために、奏者が楽器を持ち替えてもスムーズに譜面が読めるよう、運指と音符が一致するよう考慮したということである。

 ユーフォニウムは主に吹奏楽ブラスバンドで活躍する楽器である。たまに管弦楽にも使われるが、その頻度は多くなく、また国や作曲家によって楽器名の表記法も異なるため、一概にユーフォニウムとして括ることは難しい。おおむね、ドイツやロシア、中国などではテナーチューバが用いられ、フランスやイタリアではバリトン、アメリカや日本ではユーフォニウムが使われている。しかし前述のように「どのような楽器をどのように呼ぶか」という問題があるため、これらの表記から使用すべき楽器を特定することは難しい。なお、吹奏楽の定員は 1 ~ 3 人程度、管弦楽では定員には含まれず、ユーフォニウムを必要とする楽曲を演奏する場合は、トラを呼んだり、バスチューバやトロンボーンの奏者が持ち替えて演奏しているケースが多い。
 ユーフォニウムは大変柔らかい、ふくよかな音色を持った楽器である。ユーフォニウムの語源である euphonia という言葉は、ギリシャ語で「心地よい音、良く響き渡る」というような意味を持つ。この楽器の呼称を「ユーフォニアム」とする傾向もあるが、「~ ium」という接尾語が「~の素」という意味を持っており、よく間違われる金属元素の多くが「~イウム (イは母音)」と表記されているので、個人的にはユーフォニウムとするべきと考えている。要するに「心地よい音の素」ということである。
 この楽器はやや音の輪郭に乏しいため、主旋律よりもむしろ対旋律に効果的に使われることが多いが、もちろんソロ楽器としても大きな可能性を秘めている。歴史の浅い楽器なので、ユーフォニウムのための古典的名曲というものは存在しないが、近・現代の作曲家は積極的にこの楽器のための曲を発表している。中低音の金管楽器として最も操作性に優れ、広い音階の跳躍なども得意としているので、ベースラインから技巧的な旋律まで、あらゆる場面で活躍している。


有名ユーフォニウムメーカー 2 社へのリンク (英または独語)
<リンク先で各ブランドに分かれている場合があります>

Besson
Willson


ユーフォニウム雑記帳

 だいぶ前に公開され、今ではレンタルビデオで出ている「ブラス!」という映画がある。イギリスの炭坑バンド (金管バンド) が閉山によって存続の危機に立たされるというストーリーで、筋立てが単純な割に泣ける映画である。この映画では、炭坑が閉山になって生活が脅かされているというのに、意地になってバンドの活動を続ける夫や父と、1 ポンドのお金にもならない音楽にうつつを抜かす姿に愛想を尽かす妻たちとの葛藤が描かれている (最終的にはコンテストで優勝して理解を得る)。練習日の夕方に、バンドの練習に出かけようとする男達の姿が象徴的に登場し、そんな夫に妻が「ラッパと心中しな」というような悪態をつき、夫が「ユーフォニウムだってば」とやり返すシーンが何度か出てくる。
 前置きが長くなったが、このように、ユーフォニウムというのは、あまり知名度の高くない楽器である。管弦楽であまり使われないということのほかに「チューバやホルンと混同されやすい」「ソロ曲があまり多くない」というようなことも原因と思う。以前テレビでやっていた「L × I × V × E」のようなドラマで取り上げられれば少しは知名度が上がっただろうが、ここでもあまり登場しなかった気がする。
 もう 7 ~ 8 年ほど前に遡るが、私が所属していたヤマハ吉祥寺吹奏楽団では楽団員が多くなく、楽器によっては人手不足が顕著だった。ユーフォニウムに至ってはついに誰もいなくなってしまったため、私が一時的に代役を務めることになったのだが、この時、知人をコンサートなどに招いて「あれ、なるみ君てトロンボーンじゃなかったっけ?」などと言われて、自分の楽器を説明するのにも苦労した。「チューバって楽器、知ってる? あれを小さくしたヤツなんだけどね、そうそう、ぐるぐる巻いてあるじゃん。・・・いや、ホルンはもっと小さくて丸いんだけどね」という感じである。
 管弦楽にあまり使われていないのは、古典的名曲と言われる曲が作られた時代に楽器が存在しなかったからである。ユーフォニウムは中低音を担当する中では最も機能的で音色が美しい楽器の一つである。こういう楽器が世間一般に認知されないうちは、本当の意味で吹奏楽が普及したとは言えない気がする。

参考文献:新音楽辞典 (音楽之友社) / 新版吹奏楽講座 (同) ほか
記述:1999 年 10 月



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